犬が西向けば尾は東

メリカ横断ウルトラクイズで、沢山のクイズ問題を作りましたが、正解の解説を更に詳しく調べようと百科事典で確認する事があります。
すると、解説の文章の方が日本語としてややこしく、分かり難いというような説明になってしまうのです。
つまり、百科事典の説明の方が、難解な文章で分かり難いという事なのですね。
そこで、この説明文を問題として、答えを求めるという手法で沢山の問題が作られました。
第4回のソルトレークシティーでのばら撒きクイズで次のような問題が出されました。

リハーサル_バラマキクイズ

・足の保護、歩行走行、労働能率などの向上のための働きをし、衣服とつりあった美観を保持し、足を包み込む閉鎖性の履物を何という?

解説
文章でゆっくりと読めば誰でも正解に辿り着くことが出来る易しい問題でしょうね。
履物と言えば、靴か下駄か、草履というのが子供でも知っている常識です。その中でわざわざ閉鎖性と断わっているのですから、通常の意識であれば間違える人などいないはずです。
ところが、ばら撒きクイズのように、走って問題を拾って戻り、更に次の問題を拾いに走らなければならない、体力と時間に迫られて頭がパニック状態になっていると、このややこしい説明が何のことやら判断が付かなくなってしまうのです。
正解は単純な
なのですが、それも思いつかないような状況なのですね。
正解を聞いたお茶の間の皆さんは大笑いなのでしょうが、挑戦者にとっては真剣に悩んでしまうような問題だったのです。

ハズレ

他にも百科事典の説明文を読んで見ると、この様な記述がありました。
空間を二分した時の一方の側。その人が北を向いていれば、東に当たる側。
その答は何でしょう?
ややこしくて、難しい説明ですね。この答えはなのです。
同じようにを辞書で引けば、文章は途中まで同文です。
違うのは、その人が北を向いていれば、西に当たる側。東が右ですから反対の西が左になるので、説明に間違いはありません。
事ほど左様に、辞書の説明文はややこしいのですが、この様な単純な問題が多く使われたのが「ばら撒きクイズ」でした。
視聴者は子供でも解る。でも、パニック状態の挑戦者の頭の中は混乱する、その様な問題は辞書の中に沢山隠されていたのです。

百科事典

黄色いハットが立たない事件

メリカ横断ウルトラクイズの第12回がCSのファミリー劇場で、再放送されました。
その番宣番組として「今だから話せる裏話」という、10分ほどの短い番組が3本作られ放送されました。
その第2話で、当時の美術スタッフの黒木遠志さんが出演した時のエピソードで「黄色のハットが立たない」というエピソードを紹介しましたが、番組の中ではその顛末が良く理解出来ないうちに、別の話に変わってしまい、そのエピソードをもっと解りやすく紹介して欲しいというリクエストが私のブログにありました。

こで、私の知る限りの思い出を書いてみたいと思います。
この事件が起こったのは第14回でした。
この回は、アメリカ大陸を西海岸から東海岸まで、全ての行程を車で移動してクイズを行うというスタッフにとっては体力的に一番ハードな回でした。
その中の3番目のチェックポイントがソルトレークシティーでした。
この地はその昔、大陸横断鉄道が東西から工事を開始し、中間点でドッキングした記念するべき場所だったのです。

大陸横断鉄道

ところでアメリカの貨物列車は日本と違って運行が実に不定期なのです。
1日に2~3本しか走らない時もあれば、10数本立て続けに走るなどバラバラなのです。

しかも、車両が50輌、60輌、中には100輌と言ったように長ーいのが特徴です。
距離にすると延々1km以上もある車両がガッタン、ゴットン時間をかけて走って行きます。
踏切でこの様な列車に遭遇したら、通過するまでどのくらい待たされるか解りません。
我々はこの長い貨車を使ってクイズを行う事にしました。
題して「空席待ち列車タイムショック・クイズ」です。

大陸横断鉄道の線路の脇に、早押し解答台が3台用意され、あらかじめ並ぶ順位を決め12人の挑戦者が3列に並びます。
そして大陸横断鉄道の先頭車両が目の前を通過した瞬間にクイズが開始され最後尾の車両が通過し終わった時点で終了します。
この間に先頭の3人がクイズに回答し、誰か1人が正解すると残りの2人は席を離れて最後尾に並ばなければなりません。
この様に回答権が次々と後ろの人にバトンタッチされ、列車が通過し終わるまでに何問正解するかが競われます。
その間の総合得点で、成績の悪い2人が敗者になるというルールでした。

大陸横断鉄道2

我々スタッフは全ての準備を終え、後は列車の到着を待つ体制に入っていました。
何時、列車がやって来るのかは鉄道会社に問い合わせても正確な時間は解りません。
そこで耳を線路に押し付けて、線路の音でそろそろやって来るだろうと待ち構えていました。
かすかに線路に振動が伝わってきたので、間もなく列車がやって来るだろうと判断したその時です。

「そろそろ始まるので最終確認!」
という声が響きました。
そこで、ウルトラ・ハットの電源は通じているか最後のテストが始まったのです。
すると美術スタッフのS君が、真っ青な顔で絶叫しました。
「黄色のハットが立ちません!」
「バカヤロー!それじゃクイズが出来ないぞー」
本番前にウルトラハットの調子が悪くなるなどという事は、過去13年間に1度もあった試しがありません。
美術スタッフは総出で配線のチェックを始めたのですが、別に不具合も無いようなのです。

「間もなく列車がやって来まーす!」
線路の振動は次第に大きくなってきました。
「S! どうするんだ? 別のハットに交換しろ!」
と叫んだところで、そのような時間はありません。
可愛そうにS君は全スタッフの冷たい視線を浴び、オロオロするばかり。
結局、寸前でハットの不具合が解消して、クイズは通常通り実施されました。

もし、このまま立たなければ、クイズは中止せざるを得ませんでした。
列車はその後いつやって来るか全くわからないのですから、その責任は美術班にやって来るでしょう。
これを称して、ウルトラの美術班では
「黄色いハットが立たない」
という言葉が、呪いの言葉になったのだそうです。
黄色と言えば「幸福の黄色いハンカチ」という高倉健さん、倍賞千恵子さんの名作映画が思い浮かびます。
黄色は幸せの色、とばかり思っていましたが呪いの色とは黄色にとっては迷惑な話です。

大声クイズ

プロの集団だからこそ

メリカ横断ウルトラクイズは、テレビ番組としては莫大な費用をかけ、壮大なスケールで制作された番組でした。
日本の景気も良くて、あの時代だからこそ実現出来たという説がありますが、正にその通りだと思います。
私は、その様な稀有な番組に関われたのは、テレビマンとして実に幸せな事だったと感謝しています。
しかし、今思えばとんでもないスケールだっただけに、それに関わったスタッフも各分野の選りすぐりのプロの皆さんでした。
プロが集団で移動しながら、各自が自分の分野をより効果的に作り上げるか、真剣勝負の旅を続けていたのですから、時には意見の食い違いも起こります。

レビ制作の現場は、普通は意見が衝突した場合、責任者であるプロデューサーが纏めて丸く収まる場合が多いのです。
しかし、仕事に自信のあるプロの職人は、一度思い込んだらそう簡単に意見を曲げないという特徴もあります。
そうなると、プロデューサーの鶴の一声では収拾が付かないという事にもなりかねません。
ましてや、年齢が若いディレクターの場合、父親のようなベテランの技術者が「ダメ!」と言い出した時にはその説得に苦労をします。

ルトラクイズでは、毎年同じメンバーの技術者が担当していたので、仲間意識もあって衝突する事は少ない方でしたが、それでも時にはぶつかり合いが起こります。

それは第13回の「コンボイ・リレー・クイズ」の前日に起こりました。
その時のディレクターは、総合演出のK氏でした。
この時のいきさつは、彼と13回のチャンピオン長戸勇人さんの「QUIZ JAPAN」の対談でも紹介されていますが、前日の打ち合わせの時に起こったのです。

コンボイリレークイズ2

イズ形式は、オレゴン街道を80kmにわたって遮断し、6台のコンボイを走らせながらリレー形式でクイズを出題。先頭の車が正解すれば一気に勝ち抜けできます。
二番手以降が正解の時は先頭車と並び、ここで一対一の対決。正解すれば勿論勝ち抜けですが、残された方は先頭車として次の勝負を待つ事になります。
このクイズは車の配列が勝つための重要な要因となるのですが、勿論これを決めるのは、事前に行われたクイズでした。

本番前日の会議で、この形式に「待った」を賭けたのは音声班でした。
このクイズは、全てを無線で行うため不公平になりかねないというのです。
彼らの言い分は、当時のアメリカでは強い電波が飛び交っているので、いつ切れるかもわからない。
もし電波が切れた時に、全員に聞こえているはずの声が一人だけ聞こえない様な事が起こったら不公平になる、という意見でした。
誠に尤もなご意見でした。
しかし、その様な事態を防ぐ目的で、本命と予備の回線の2回線を用意してあったのですが、音声のプロはそれでも安心出来ないと反対していました。

このコンボイのリレークイズは、ウルトラ史上に残るスペクタクル画面として記憶に残る方も多かったと思いますが、本番前には大変な準備がなされていたのです。
ヘリコプターのパイロットは、映画の空撮シーンで有名なハリウッド屈指の腕前のパイロットを
呼び寄せていました。
また、オレゴン街道を80kmも遮断しての撮影なのですから、この許可を取るまでが大変な作業です。
そのように準備した夢を実現させるため、K氏は夜中まで音声、カメラの大先輩の部屋で膝ずめ談判をして、口説いたのだそうです。
カメラにしても音声にしても、業界ではプロとして名高い人達ですから、自分の職責の範疇では中々妥協をしてくれません。
最後は根負けしたのか、しぶしぶ了承を取り付け、あのダイナミックな撮影が敢行出来たのです。
この様な、頑固なプロに囲まれながら演出をした訳ですから、傍目にはお山の大将のように見えるディレクターという仕事も、実は苦労が多かったのです。
戦いは常に真剣勝負 ラクでは無い のでした。

コンボイリレークイズ1

信号の色は世界共通か?

メリカ横断ウルトラクイズでは、毎年沢山のクイズ問題をつくりましたが、中には問題そのものがはてな? とマークが付くような珍問もありました。
まさか、この様な問題で間違える人はいないだろうと思いながらも
「いや待てよ。これは引掛けで反対が正解だ!」
と裏の裏を考える人がいるものなのですね。
特に○×問題は正誤の確率は2分の1ですから、丁半バクチに近いきわどい判断が決め手になってしまいます。

第7回の後楽園での○×問題に、次のような珍問が出題されました。
・紅衛兵で有名な文化大革命の頃、中国の信号は革命の色「赤」が進めだった。

信号機

・×

解説
当時、勢いの有った紅衛兵が、赤は革命の色なので、信号も赤を進めにするように申し出ていました。赤は止まれで、青が進めは世界の常識。しかし、常識に囚われていたのでは革命は出来ないという言い分も解らないわけではありません。
多分、この様な申し出を受けた、中国共産党の内部でも意見は分かれた事だろうと推察できます。といって、若者たちの言い分を認めてしまっては、世界の常識を根底から覆す事になりかねません。世界の一員として、外国人観光客の混乱も予想されるでしょうね。
諸々を検討した結果、この申し出は却下され、その様な改革はなされませんでした。
勿論、答えは×が正解です。

面白いのは、この様な突飛な問題でも意見が2つに分かれる、それがウルトラクイズの問題の楽しさだったように思います。
要は、クイズ好きは疑り深い
従って、常識の裏の裏を常に覗いているという事のようです。
確かに、通常では常識と思っている事が間違いだった、という問題も沢山ありましたし、それを探すのもクイズ問題の醍醐味ではありました。
クイズ問題は 素直じゃない、これが答のようです。

自由の女神の著作権?

メリカ横断ウルトラクイズの象徴ともなっていた「自由の女神様」、何故か第一問に採用されて以来、番組の象徴的な存在になっていました。

ニューヨーク

「ニューヨークへ行きたいかー!」
という福留アナの第一声から番組が始まっていたので、ニューヨークの象徴の自由の女神が、番組の象徴になるのは自然の流れで、ウルトラクイズと言えば、自由の女神、と結びつくほど皆さんの記憶に焼き付いている事でしょう。

肉な事に毎年、クイズ問題を作っていた我々の一番頭を悩ませていたのも、自由の女神様でした。
何故か? 我々は毎年、たった一つの銅像に関するクイズ問題を考えなければなりません。
しかも、問題は書物に記載されていない情報から問題を作る、という条件付きなのです。
自由の女神ほど、知名度のある建造物となると、あらゆる情報が書籍に記されています。
その隙を突いた問題、となると自らの発想しかありません。
そこで出てきた疑問点、
「自由の女神」の著作権はどの様になっているのか?」
 という謎でした。

像の制作者である彫刻家のバルトルディーは死後50年以上経過しているので、多分著作権は切れているはずだ、と想像できます。
しかし、家族に引き継がれているかもしれません。
あるいは公共の場に建っているので、権利はニューヨーク市にあるという事も考えられます。
そこで、我々は女神様の肖像権について、アメリカで調査をいたしました。
その結果、何と
「著作権フリー」という回答を得たのです。

近、中国でエジプトのスフインクスの偽物が建造されニュースになりました。
勿論、御本家のエジプト政府は抗議しています。
また、同じ中国ではパリのエッフェル塔のコピーが誕生したり、色々なコピー商品が話題になっています。
また、日本各地で自由の女神のコピーの像が建っています。
でも、これらは本家からクレームが付いたという噂は聞いた事がありません。
それは、著作権がフリーだからなのです。

我々は、この点に着目して第15回の第一問を作りました。

・アメリカの象徴、自由の女神を他の国が国旗に採用してもアメリカの許可はいらない×か、 という問題でした。



解説
自由の女神の肖像権は消滅していました。
理由は公の場所に建ち、一般に公開されているからであり、その前で写真を撮ろうが、絵に描こうが誰の許可もいらないというものです。これは全てに於いて平等で、国旗に描こうが、硬貨にデザインしようが、構いません。
当時、全国に誕生したクイズ研究会がサークルのシンボルマークにしても、誰からもクレームは付けられなかったのですね。
でも、その様な噂は聞いた事がありませんでした。
自由の女神は全てに於いて自由だったのでした。