問題のねらい目は素朴な疑問

メリカ横断ウルトラクイズでは、毎年沢山のクイズ問題を作りました。
それなりに多勢のクイズ作家が参加してくれましたが、中にはクイズ大好きな主婦や大学生も参加していました。
私はクイズ問題の責任者だったので、毎年問題作家にクイズになりそうなネタを探すアドバイスをしていたのです。
クイズ問題は、世の中のすべての出来事が素材になりますが、ただ記憶力を試すだけの知識を競うだけでは面白い問題とは言えません。
と言って漫然と本や新聞を眺めていても、面白い話題が転がっている物でもありません。
勿論、本や新聞に出ている記事の中にも、面白い素材がありますので、目を通す事は重要でしょう。
その素材を如何に面白く問題にするかがクイズ作家の腕にかかっているのです。
クイズ問題を考える時の心構えとして、私は「素朴な疑問」を持つようにという事を言っていました。
自分が感じた素朴な疑問を解く事が、面白い問題につながると信じたからです。

第11回にグアムの×クイズに採用された問題を例に説明してみましょう。

日本で社会的に尊敬されている職業は、それぞれ難しい国家試験に合格しなければ、資格を取る事が出来ないものが多いです。
医師弁護士税理士検事、それぞれみんな難しい国家試験に合格しています。
では、試験に合格さえすれば誰でもその職業に付けるのか? そんな素朴な疑問が湧いてきます。
そこで、作られたのが次の問題でした。

・子供でも試験に受かれば弁護士になれる。

child-lawyer



解説
弁護士資格を得るのに、学歴、年齢による制限は一切ありません。
但し、小学生や中学生の子供が、いくら勉強したと言っても試験に受かるほど易しくないので、子供でその資格を獲得した人間は居なかったというのが現実でした。
この様な一般常識の盲点が記憶に残る面白い問題になるのです。

・地球上にはオッパイのある鳥もいる。
地球上には我々の知らない動物が沢山生息しています。若しかすると、オッパイを飲ませてヒナを育てる鳥がいたって不思議ではないかも知れません。
クイズ問題になるくらいだから、その様な鳥がいるのだろう、と迷ってしまいます。
特にグアムの○×問題は一瞬で判断しなければなりません。エーイ、イチかバチか、決めてしまえとばかり、○× どちらかのパネルに飛び込んでしまいます。

泥んこクイズ1


×

解説
動物で乳房のあるのは哺乳類だけです。逆に言えば、乳を与えるから、哺乳類と名付けたわけですね。
鳥類は卵を産んで子孫を残す、これは学校で習った常識です。
でも、一瞬の判断を迫られると迷ってしまう、素朴な疑問でした。

また、この様な問題もありました。

・漢字で「百の足」と書くムカデ。一本の足だけを独立して動かす事は出来ない。

百の足がそれぞれ自由に動かせたら、すごい便利だろうな、という疑問が湧いてきます。虫とはいえ、同時に複数の作業が行えたら他の昆虫には脅威でしょう。この疑問を調べて見ると、意外な事実が解りました。

百足競争


×

解説
一般的に考えれば、足は同時に同じ動きをしているように見えるかもしれません。そこが盲点だったのですね。
ムカデの足にはすべて神経があるので、一本だけ動かす事も可能なのだそうです。
知って得をする知識とも思えませんが、一寸した雑談のネタにはなりそうな話題として採用されました。

クイズ問題は、日常生活の中で自分が疑問に思った事を調べて見る、そんなところから素朴な問題が誕生していたのです。
森羅万象、素朴な疑問は沢山転がっています。

クイズを作る楽しみ
、皆さんもやってみませんか?

クイズ問題のその後。。。黒い噂?

メリカ横断ウルトラクイズは1970年代に作られ17年間放送されました。
番組のクイズ問題の責任者だった私は、当時の古いクイズ問題を読み返して、現代と答えが変わっているものを時々発見し、クイズの答えは時代と共に変化するものもあると実感しています。
この様な作業の中で発見した話を本日はご紹介してみたいと思います。

第6回のルイビルで出題された問題の中に、次のようなクイズがありました。

・映画「007ゴールドフィンガー」にも登場、アメリカ政府の金塊保管場所のあるケンタッキー州の街は何処?

Fort_Knox

ルイビルはケンタッキー州にあって、緑の牧場が果てしなく続く、競走馬の名産地です。
この場所のご当地問題として、上記のクイズが出題されました。

・フォートノックス

解説
アメリカ陸軍の基地で、この敷地内にはFRBの金塊貯蔵施設があります。これは1936年に完成したもので、地下深くに建造された厳重な防空建築物なのですね。
第2次世界大戦中は、アメリカの大切な財産はほとんどこの金庫に保管されていたそうです。例えば独立宣言書、憲法の原稿、マグナ・カルタ、グーテンベルグ聖書、リンカーン大統領のゲティスバーグ演説草稿などです。
それだけ頑丈で安全な金庫という訳ですね。

世界最強のアメリカ陸軍の施設内に在って、防空建築物となればこれ以上安全な場所は考えられません。
そのため、世界中の国がこの施設の金庫に金を預けるという事になったのだそうです。勿論、わが日本国の財産である金のインゴットも預けてあると言われます。

Fort_Knox_gold

ところが、近年この施設には数々の謎が囁かれるようになったのだそうです。
「007ゴールドフィンガー」に登場するくらいですから、物語の舞台としてはこれ以上恰好な場所はありません。
「007ゴールドフィンガー」の他「ダイ・ハードⅢ」でも登場していますが、この場所には金の業界では有名な数々のが流れています。

例えば、中国がアメリカから返還された金が偽物にすり替えられていたと問題にした。ドイツが預けた金を確認しようとしたが、アメリカが拒否をしている、などがあげられます。
また、アメリカは世界から預かった金を売り飛ばして、実際には帳簿に記載されているほど保管されていないのでは? といった噂まであります。
勿論、真偽のほどは確認する術もなく、噂の域を出ませんが、フォートノックスには、現在この様なが数多く囁かれているのです。
世界中の金のインゴットが、この金庫に集中しているといわれる場所だけに、色々な空想妄想が入り乱れて、噂の基になっているのでしょうが、我々が問題の裏付け調査をした時には、その様な噂は全くありませんでした。
正解に変化はありませんでしたが、時代の流れと共に事情が変わるというお話です。
一寸信じられないような噂をご紹介しました。

纏めるのが好きな日本文化

メリカ横断ウルトラクイズのブログで、三大○○は要注意というお話を書いたところ、昔から日本の文化は同じような功績、人物、建物、場所などを纏めて銘々する事が多いのだというご意見を戴きました。
そう言えばウルトラクイズの問題でも、総称を一つの括りで問題を作っていた記憶がありました。
三筆四天皇と言ったように、優れた人達を何人か纏めて、その人達をクイズ問題にする、リレークイズの様な形式には恰好の問題ですね。

ちょっと調べたところ、第8回のバハマで正にそのものズバリの問題が出題されていました。

・白波五人男と六歌仙と七福神。女性が一人もいないのはどれ?

実に単純明快なクイズ問題です。
本来のクイズなら、それぞれ個々の名称を答えなければ得点になり難い題材でしょうね。
白波五人男って誰だっけ?

白波五人男

日本駄右衛門、忠信利平、南郷力丸、赤星重三、弁天小僧、この歌舞伎のお芝居でお馴染のメンバーです。

また、六歌仙は「古今和歌集」の序文に紀貫之が「近頃その名の聞こえたる人」、として挙げた六人の歌人の総称です。

六歌仙

個々の名を挙げるなら、在原業平、僧正遍昭、喜撰法師、大伴黒主、小野小町(女)、文屋康秀の六人です。

更に七福神は大黒天、恵比寿、毘沙門天、弁財天(女)、福禄寿、寿老人、布袋、と七人の福の神様です。

七福神

恐らく、リレークイズでこの名前を順番に問う問題を出したならば、全員の名が出てくるまでは、可成りの時間を要したと思います。
しかし、ここでの問題は全部を知らなくても、勘で正解を出す事が出来ました。

女性が一人もいないのはどれ?
という問題ですから、小野小町弁財天に気が付けば正解なのですね。
それ以上に「白波五人男」は、言葉通り受け取れば女性が一人も入っていないと解る訳です。
でも、若しかすると弁天小僧が本当は男装した女で、ひっかけ問題かな? と疑う人が居るかもしれません。
その様な疑心暗鬼な気持ちが、挑戦者には常に付き纏っていたと想像できるのです。
この時は、海底での早押しクイズでしたが、迷うことなく早押しボタンを押した人の得点になりました。
本来ならば、何問か出来そうな題材を一問の問題に使ってしまう、考えてみれば贅沢な問題でした。

生き残りを賭けた究極の戦い

メリカ横断ウルトラクイズでは、数多くのクイズ形式を考えました。
知力、体力、時の運を賭けて、クイズに勝ち残った人がチャンピオンになる番組ですから、勝ち残るのには大変な才能と運がなければなりません。
そのような条件の中で挑戦者にとって一番きつかったのはどのようなクイズ形式だったのかを振り返ってみました。
大変と言えばどの形式も楽なものはありませんが、厳しいという点では第10回の地獄コースの準決勝を忘れる事が出来ません。
この回は変則的なコースで、途中から「天国編」と「地獄篇」の2つのコースに分かれて旅をする事になりました。

それを選ぶのは南部の都市アトランタでした。
ここまで勝ち残った11名が、勝ち抜けた順に自由選択で好きなコースを選ぶ権利が与えられたのです。
Aコースはアンデスチチカカ湖と言った神々の伝説の地を巡る南米のコースです。

ボリビア

チチカカ湖

一方のBコースは、マイアミ半島ディズニーワールドカリブ海、バハマといった明るい観光地を巡ってニューヨークを目指すというものでした。
神秘の世界へ足を向けるべきか、片や明るい観光地巡りに進むべきか、挑戦者達は悩ましい選択を迫られました。
まさか、これが天国と地獄の分かれ道とは知る由もありません。

今回は、この地獄コースのお話です。

地獄を選んだ5名が、ラパス、チチカカ湖と進んでブラジルの首都リオデジャネイロに辿り着いたのは3名でした。
ここで行われたのが準決勝、勝ち残ればいよいよニューヨークという夢の舞台へ駒を進める事が出来ます。
ここでのクイズは、生き残りを賭けた究極の形式、弱肉強食の世界を味わってもらおうというものでした。
名付けて「弱肉強食ポイント略奪クイズ」です。
今までの旅で生まれた友情や信頼、そんなものは捨て去りましょう。
自分が生き残るためには仲間を犠牲に食い潰すしかない、という動物の本能をむき出しにしたクイズ形式でした。

ルールは全員に4ポイントの持ち点が与えられます。クイズに正解すると残る2人の好きな方を指名して、1ポイント奪い取る事が出来るのです。
自分より実力がありそうな仲間を早く食い潰すという訳ですね。
そうはさせまいと、焦って答えようとすると、そこにも罠が仕掛けられていたのです。
早とちりや誤答をすると司会者に1ポイント取り上げられてしまうという罰則です。
こうしてポイント数が0になると失格で消えてもらいます。
最後に残った1人が勝ち抜け者としてニューヨークへ行けるというルールでした。
地獄コースの締めくくりだけに、閻魔さまも驚くほど厳しいルールでした。

この様な難関を勝ち抜けたのは機内ペーパークイズ2位の実力者Mさん(当時26歳)。
ウルトラクイズのチャンピオンはクイズの世界では有名人が多かったのですが、このMさんも、他のクイズ番組で8回も優勝を重ねた実力者で9回目の勝利を挙げたのでした。
チャンピオンは運だけではない! これが結論です。

問題に大切な事

メリカ横断ウルトラクイズのクイズ問題は、幾つかのパターンに分かれます。
第一に答えの意外性が求められます。
「エッ!本当?」と正解を聞いた人が驚くような問題は、歓迎されました。
一般に誤った知識を、これが常識と勘違いしている人達に本当の事を知らせる、という目的がありました。

例えば第7回グアム×問題を幾つか挙げて検証してみましょう。

・バイキングの故郷、ノルウエーでも、「食べ放題の食事形式」をバイキングと呼んでいる。

vikings
×
解説
何故、食べ放題をバイキングと呼ぶようになったのか諸説ありますが、ノルウエーではその様な呼び方はしていません。
日本独自の呼び方で、これを海賊たちの食べ方と、誤った知識が蔓延していたので、この問題は採用されました。

クイズ問題のパターン二は庶民の常識を問う問題
クイズそのものが常識を問うゲームなので、あえて説明するまでもないのですが、常識と思っている事柄も年代によっては随分差があります。
若い人には常識でも、お年寄りは全く知らない事柄、その逆もありますね。
昔の人なら誰でも知っていた常識で次のような問題がありました。

・一畳の畳の縦の長さは、必ず横の長さの二倍である。

畳
答・○
解説
京間、たて6尺3寸。 よこ3尺1寸5分。
中間、たて6尺。 よこ3尺。
関東間、たて5尺8寸。 よこ2尺9寸。
団地サイズ、たて5尺6寸位。 よこ 2尺8寸位。
横が縦の半分でないと、部屋にうまく収まらないのです。畳の場合は現在も尺貫法で表記されています。

クイズ問題のパターン三は思わず笑ってしまう問題です。
問題そのものが笑えて、答えを聞いても笑える、その様な問題が理想でしょうね。
・勝海舟は子供の頃の名を、勝新太郎といった。

勝海舟
答・×

解説
勝海舟は幕末から明治にかけて大活躍した政治家で、日本人なら誰でも知っている偉人の一人でしょうね。
昔の人は幼名と成人してからの名が変わるのは普通だったので、子供の頃に新太郎と呼ばれた時代があったかもしれないと、思わず迷ってしまいます。
俳優の勝新太郎さんはそこから名前を付けたのかなあ? という疑問も起こります。
でも、正解は初めは義邦、後に麟太郎、この辺はドラマなどでもお馴染の名前です。
座頭市の人気スターと幕末の偉人を組み合わせた、思わず笑ってしまう問題として記憶に残りました。
幕末の偉人はクイズ問題に良く登場する常連ですが、でもこの様に笑いを呼ぶような出題は我々の問題の特徴だったかも知れません。