番組作りのテクニック

メリカ横断ウルトラクイズのクイズ問題を分類すると「歴史」という分野がありました。
日本の歴史、東洋の歴史、世界の歴史、学校で習った歴史の他、小説のテーマになったり、クイズ問題を作る上で歴史問題は欠かせない分野と言えます。
ただ、ウルトラクイズの場合は、学校のテストのように単なる知識だけではなく、面白い視点で捉えないと採用される確率が低いので、クイズ問題作家達は歴史問題を避ける傾向がありました。
しかし、歴史の問題はクイズには欠かせない要素です。
そこで、私は問題作家に問題作りのアドバイスを与えていましたが、歴史については次の様な話をした記憶があります。

「日本の歴史を調べると、元号が中心になっている場合が多い。だから元号の一覧表を眺めて、その中から何かを掴んで見たら?」

この話は結構効果があって、元号に関する数々の問題が誕生しています。

長く続いた元号は?
元号に登場する動物で多いのは?
この種の問題は、毎回出ていたように思います。

初期の頃、第2回では次のような問題が生まれています。

・東京六大学の中で、元号に由来する名を持つのは「明治」と何処?

慶応大学

・慶応

解説
クイズ問題としては超易しい問題かもしれません。
瞬間、東京六大学を思い浮かべれば、早押しボタンを押して回答権を得た後に、ゆっくり考えれば答は出てきます。
クイズ慣れした人なら簡単に正解出来るでしょうが、慣れていないと、東京、立教、法政、早稲田、と大学名を一つづつ頭の中で復唱して「ああ、そうか」と気付いた時にはすでに遅く、誰かに先を越されているでしょう。

この様な易しい問題は、早押しクイズをテンポ良く進行させるために絶対に欠かせないのです。
放送上は編集でカットされる場合が多いので、視聴者の皆さんは気が付かないでしょうが、実際の収録では、結構簡単な問題も数多く使われていました。
この問題などは、その代表的な例でしょうね。
放送の上では、クイズ問題は旅を進めるにつれて、次第に難しい問題になるように配列されています。
勝ち残る挑戦者は、流石に難しい問題を答えられる、というような印象を持たせる番組作りのテクニックです。
そうは言っても、難問ばかりでは視聴者が付いて行けず、番組として成立しません。
そこで、問題に強弱をつけながら、視聴者をひっぱって行く、それが私達番組構成者の大切な仕事でした。
準決勝、決勝戦ともなると、超難問が多くなり、この辺まで勝ち進んだ人はそれに応えられるので、一見プロの勝負のように見えてきます。
それがクイズ番組の醍醐味となって、多くの視聴者を魅了したのでしょう。
毎年、勝者はクイズ界のスターになっていました。

懐かしい昔の問題

メリカ横断ウルトラクイズのブログを書きだしてから、時々昔の問題を読み返して見ると、アメリカの様々な歴史が見えてきたりします。
その様な中で、第1回のダラスで次のような問題がありました。

・1,965年、世界で初めてテキサス州ヒューストンに出来た屋内野球場の名は?

astrodome

・アストロドーム

解説
ナショナル・リーグ、ヒューストン・アストロズのホーム・グランドとして世界で初めて屋根付きの野球場として誕生しました。
今ではウルトラクイズの第1次予選でお馴染の東京ドームを始め、日本でも屋根付きのドーム球場は各地にありますので、珍しい話ではありませんが、この番組が初めて放送された1,970年代には屋根付きの野球場が有ること自体、大変な驚でした。

「アメリカって、凄いなあ。雨が降っても野球中継が中止にならないなんて」
この様な驚きが、クイズ問題の中に含まれていたのです。
ついでに、この時には野球の問題が幾つか出ていますが、次のような問題もありました。

・野球のポテン・ヒット、正式には何という?

大リーグ

・テキサス・ヒット

解説
テキサス州出身の選手が得意としたヒットで、内野手と外野手の間に落ちる弱い当たりで、この名が付きました。
アメリカでは「テキサス・リーガーズ・ヒット」とも呼ばれるそうですが、語源はテキサスにあったのですね。

テキサスは西部劇でお馴染の舞台で、「OK牧場の決闘」 「荒野の決闘」などが有名です。
ガンマンも実在のワイアット・アープ、ドク・ホリデー、更にビリー・ザ・キッドなどが、この地で大暴れしたという歴史があります。

ところでメジャーリーグ、アストロズはその後、日本でも注目を浴びる事になりました。

astros

そうです。日本人選手がどんどんメジャーリーグに移籍する事になり、2,008年~2,010年まで、あの松井稼頭央選手が所属したのですね。
現在のクイズ番組ならば、その辺の情報も含めて、アストロドームを答えにする問題も出来そうです。

?老朽化のため、アストロズのホームグランドは今では変更されていました。
古い問題を読み返すと、結構今でも通用しそうな問題があるのでご紹介しました。
古きを訪ね新しきを知る。
温故知新というのでしたね。
この言葉の意味も問題に出ました。

アメリカの歴史を学ぶ問題

メリカ横断ウルトラクイズは、アメリカ各地を旅をしながらクイズを行った番組です。
番組開始の頃は、まだ海外旅行が珍しい時代だったので、アメリカ各地を紹介するだけで、結構楽しんで下さる方が多かったのです。
しかし、回を重ねるにつれてアメリカという巨大な国をもっと知りたいという欲求も出てきました。そこで、我々は機会ある毎にアメリカの歴史、習慣、風習と言ったものをクイズ問題に取り入れて、アメリカという国を紹介していこうという方針を立てました。
そこで私は、クイズ問題を作る作家達に、アメリカの国情を勉強して、それを問題に取り入れるよう注文を出しました。
その効果は第8回、9回頃から出始めています。
例えば、第10回のアトランタでは、次のような問題が出されていました。

・アメリカの奴隷解放運動のきっかけとなったストウ夫人の小説のタイトルは何?

アンクルトムの小屋

・「アンクルトムの小屋」

解説
この小説は、悲惨な奴隷達の生活をつぶさに見て、心を痛めたストウ夫人が、1人の奴隷を主人公に描いた小説です。
1,852年にこの本が出版されるや、たちまち大反響を呼びました。奴隷解放を叫ぶ運動が活発になり、南北戦争の導火線になったのです。
南軍の総司令官はリー将軍。北軍の総司令官はグラント将軍、この辺もクイズ問題として出題され、アメリカの歴史をお勉強しました。
奴隷解放と言えば、第16代大統領リンカーンが1,863年に「奴隷解放宣言」に署名した、と学校では習いました。
でも、それよりも11年も前にストウ夫人が書いた小説が導火線になったというのは、ウルトラクイズで知ったという方も多いと思います。

「アメリカの歴史を学べ」
親や教師からこの様な事を言われると、何となく反発を受けそうです。
でも、クイズという形で出題されると楽しみながら頭の中に知識が積み重なって行く、そこがクイズの面白い所なのです。
学校の勉強もクイズ問題として、教室で競い合ったら効果が倍増しそうなのですが、いかがでしょう?
文科省でそんな話、出るはずない ですよね。

再放送、番組宣伝番組の収録報告です

メリカ横断ウルトラクイズが史上初めて再放送される事になり、反響が大きいようです。
スカパーの「ファミリー劇場」で6月から第12回が再放送されることとなり、先日ブログで報告しました。
また、この放送の番組宣伝のための収録が5月9日に行われ、私も出演したのですが、本日はその報告をしたいと思います。

番組は「今だから話せる裏話」をテーマに、小倉淳さんと対談の形式で3本収録されました。
久々に昔の仲間と再会できるので、喜んで会場に駆けつけたのですが、懐かしい昔の話をする前に取材記者が沢山集まっている事に驚きました。
取材が有るとは聞いていましたが、2人か3人の規模だと想像していたのです。
ところが、数えてみるとスカパー関係の記者だけでなく、スポーツ新聞など10社以上、その上沢山のカメラマンまでいたのです。
取材対象が小倉淳さんと私の2人だったので、何の打ち合わせも無く席に着きました。
私は長年テレビ制作の仕事をしてきたので、この様な記者会見に立ち会った事は数多いのですが、私が取材対象になったのは人生初の体験で、どのように進行するのか不安になりました。
多分、お喋りがプロの小倉さんが上手くリードしてくれるだろうと、気楽に構えたのです。

と、間髪を入れず記者会見が始まり、いつの間にか番組宣伝の裏話を自分から語っているので、我ながらビックリしました。
本来、小倉さんとの本番で話そうと、用意した材料を収録前の記者会見で、どんどんお喋りしていたのです。
ただ、幸いにしてこのブログを書いているので、裏話の材料は幾らでも持っていたので調子に乗りすぎたようです。
小倉さんも負けずに、体験した裏話を喋っていたので、アッという間に約束の1時間が過ぎてしまいました。

「予算がいくらかかったのか?」といった答え難い質問に対しては、「元日本テレビ社員の小倉さんに聞いてください」と答るのを避けていました。
実は、毎回予算を大幅に赤字にしていた、という話は聞いていましたが、具体的な数字は知らされていないので「知らない」というのが真実です。
ただし、赤字を出したプロデューサーは局内でどんどん出世し、局長、役員、最高は系列局の社長にまで上り詰めています。
テレビ業界はヒット番組を作った人が偉くなる、それをウルトラクイズは証明していました。
ただ、その日のニュースで、この「連続赤字だった」という話が取り上げられ、インターネットで流れていたので、その素早さに驚きました。
20年以上昔に放送された番組が再放送される、たったこれだけのニュースに記者の皆さんがこんなに多勢集まってくださる、改めてウルトラクイズの持つパワーを再確認させられる出来事でした。

肝心の小倉淳さんとの対談番組は?
私との対談、美術スタッフとの対談、12回出演者との対談、3本共に、乗りすぎて収録予定時間を大幅にオーバーしました。
ディレクターは編集で相当苦労する事でしょうね。
中身は?見てのお楽しみ。裏話が一杯詰まっていました。

pandra

ファミリー劇場のHPはこちらです→https://www.fami-geki.com/

ワインのようなクイズ問題

メリカ横断ウルトラクイズで、クイズ問題になった範疇には「戦争文学」という分野がありました。
古来から戦争は、人間の生き死にに関わる行為ですから、現実に沢山のドラマが生まれています。
これを、物語を作る小説家たちが見逃す筈もなく、古今東西戦争文学と言われる名作が沢山誕生しています。
中には歴史的な戦いを描くものや、世界各地の紛争、世界大戦などをテーマにした名作と呼ばれる作品も数限りなくあります。
ウルトラクイズでも、戦争と文学作品に関しては沢山のクイズ問題が作られました。
戦争文学の世界的な文豪と言えば、ヘミングウェイで、「武器よさらば」「誰がために鐘が鳴る」などが代表的な作品ですね。
これらはヘミングウェイの縁の地、キーウエストのご当地問題で何問か出題されました。
また、他の場所を調べて見たら第11回のデビルスタワーでも、関連問題が出ていました。

・「武器よさらば」の背景となった戦争は第一次世界大戦。では、「風と共に去りぬ」の舞台となったのは何戦争?

風と共に去りぬ

このような問題でした。本来この問題は、舞台となったアトランタで、ご当地問題として出されるべきだと思います。多分、クイズ問題作家もそのつもりで作った問題でしょう。
しかし、この回にはアトランタはコースに入っていません。
そこで、不思議に思って前年、第10回のコースを調べると、アトランタが入っていたのです。
そこで、アトランタのクイズ問題をチェックすると、何と南北戦争の問題が幾つも出題されていたのです。つまり、問題の傾向が似ていたので、カットされていたのです。でも、問題を「没」にしてしまうのは惜しい、という事で翌年に復活したというのが真相のようです。

時事問題のように、その年に放送しないと価値が無くなるという問題が有ります。反面、時期に関係の無い問題もあり、その場合は一年繰り越して翌年採用されるという事もあるのです。

・南北戦争

解説
マーガレット・ミッチェルの長編小説で、映画でも名作として有名です。
前年のアトランタでは、南北戦争の戦場だっただけに、誰でも正解してしまうだろう、という理由で問題はカットされていたのです。
しかし、場所を変えて出題すれば、結構難しい問題になるかも知れない、との判断だったようです。
この様に、クイズ問題は毎年新作が作られていましたが、中には前年の作品も時々混ざって出題されていました。
といって、売れ残り大バーゲン という訳では有りません。
寝かして熟成させていたのです。

ワイン倉庫