心残りのロケ候補地、ミステリーゾーン

メリカ横断ウルトラクイズは、ロケの候補地を会議で検討し、その中から現地を視察するロケハンを経て実行に移されていました。
私は毎回のように、ロケハンに参加し、ロケの場所を決めるメンバーの1人でしたが、心に残る残念な候補地も何箇所かあり、以前にもこのお話しは書いた事がありました。
今日も、そのような場所の事を書いて見たいと思います。

あれはサンフランシスコに近い場所でしたから、第8回のロケハンだったと記憶しています。
サンフランシスコに近いヨセミテ国立公園の中に、ミステリー・ゾーンと呼ばれた不思議体験を味わえる場所がありました。
静かな森の中に、木造の小屋が何棟か建っていて、この小屋の中がミステリー体験ゾーンなのでした。

ヨセミテ国立公園

のような不思議な体験が出来るのか?
例えば自分よりも身長の高い相手と正面から向き合うと、不思議な事に、自分の方が高く感じるのです。
また、部屋の中に入ると、部屋自体が傾いていて、真っ直ぐ立つのに苦労しますが、鏡には直立の自分の姿が写っていて、頭が混乱してしまうのです。

このように、不思議な部屋が幾つもあって、説明によれば磁気の関係で、錯覚を起こすのだと書かれてありました。
しかし、人間の錯覚を利用した仕掛けで、遊園地にあるマジック・ハウス的な印象もぬぐえません。

時は、畑の中にミステリー・サークルと呼ばれた不思議な模様が描かれたり、この現象を追跡するスペシャル番組が、各テレビ局で競って作られていました。

ミステリーサークル

このような番組は、宇宙人の仕業だ、などと人々の興味を煽るキャッチ・コピーで話題を呼びましたが、冷静に考えれば、誰かが仕掛けた現象に違いありません。
中には、張本人が名乗り出て、告白したというニュースもありました。

また、このような現象を肯定する立場否定する立場、と両陣営からタレントになった人まで居ました。

「幽霊の、正体見たり、枯れ尾花」という言葉があるように、仕掛けを解き明かしてしまえば、「なーんだ!」となるような話なのかも解りません。
とは言え、この場所は捨てがたく、我々はこのように人間の錯覚を利用したクイズ形式を、アレコレと随分考えました。
しかし、残念な事に、誰もが納得し、それでいて面白いクイズの形式を生み出す事は出来ませんでした。

結局、ロケハンで面白い場所を下見したものの、ここをクイズ会場にする事はなかったのです。
ミステリー・クイズが完成しなかった理由は?
正に、ミステリーだったのです。

コンピュータ時代の幕開け

メリカ横断ウルトラクイズが始まった頃には、今のようなIT時代が来るなど、予想も出来ない事でした。
今では、小学生でもパソコンを使っていますし、携帯電話も小学生の低学年から持っているような子もいるので、将来は機械に人間が使われてしまうようなSF小説が現実味を帯びてきました。

google_glass

にも書いたかもしれませんが、現在のようにパソコンや携帯電話が発達した時代には、あの我々が作っていたウルトラクイズは、制作不能のような気がします。
その、片鱗とも言える出来事が、すでに8回の時に起こっていました。
84年の事ですから、29年前の成田でのジャンケンでの時でした。
普通、ジャンケンは自分の勘を頼りに、グー、チョキ、パーを出して勝負をする。
この原始的な勘で勝負するのが、面白いゲームなのです。
しかも、日本人なら誰でも、このジャンケンで遊んだ経験があるのですから、実に公平で公正な勝負が出来ますよね。

ころが、この年成田で、ストレートで勝ち抜けた人物が現れたのです。
この人物は、どのような人だったのか、私の記録には残っていないのが残念ですが、兎も角ジャンケンの勝率をコンピユーターにインプットして、その通り勝負をしたら、ストレートで勝ち抜けた、と語っていました。
おそらく、今的に表現すると、典型的なパソコン・オタクといった人物なのでしょうね。

い翌年以降、そのような人が出てこなかったので、忘れられたのだと思いますが、皆がみんな、このようにコンピューターに頼ってジャンケンをはじめたら、多分面白さも半減してしまう危険性があります。
つまり、ジャンケンの魅力を忘れて、パソコンの知識を競う方向へ、目的がスライドしてしまうかも知れません。

京ドームの第一問にしても、パソコンや携帯電話が今ほど発達していたら我々クイズを作る側も、多くの制約に縛られて思い切った勝負は出来難いと思います。
このように考えると、ウルトラクイズは、世の中がまだアナログ時代だったからこそ、通用した番組だったのかも知れません。

今のこの時代だと、世界中のニュースが、瞬時に個人に伝わってしまいます。
また、ツィッターのように、個人の意見が瞬時に拡って行く仕組みも出来ていて、このような要素を、番組に組み込んだとしたら、どのようになるのでしょう?
もう、アナログ人間の私などには、企画に加わる能力さえ持ち合わせていません。

老兵は死なず。
ただ、消え去るのみ、マッカーサーは良い言葉を残しました。

マッカーサー