夜景の中の決勝戦

メリカ横断ウルトラクイズの決勝の地はニューヨークが定番でした。
番組冒頭の決まり文句が「ニューヨークへ行きたいかー!」という福留アナの絶叫で始まった番組ですから、決勝の地は2回の例外を除いてニューヨークで行われていました。
番組開始当時はニューヨークの高層ビルとして名高いパンナム航空のパンナムビルの屋上ががお決まりの決勝戦の場でした。
このビルの素晴らしいのは、ニューヨークの街が一望出来る場所にあった事です。
しかも背景にはあの有名なエンパイアステートビルとクライスラービルの特徴ある姿を入れ込む事が出来た事です。

その様な理想の場所も、第8回を最後に他の場所に変更しなければならなくなりました。
理由はビルの持ち主が変ってしまったためです。
第9回はパリが決勝の地でしたから、エッフェル塔を背景に行いましたが、さて第10回が問題でした。
幸い番組の10周年記念という口実があったので、それならばニューヨークの象徴、自由の女神様のおひざ元が良いだろうという安易な案が採用されました。
そしてリバティ島の桟橋で決勝戦が行われたのです。

して次の第11回も自由の女神様を背景に決勝戦が行われましたが、番組全体の印象が何となく稀薄に感じてしまうのです。
やはり長い旅の締めくくりですから、もっとインパクトのある決戦会場が必要と言う声が高まってきました。
我々はロケハンで、決勝戦に相応しい華やかな会場を探さなければならなくなりました。
「ニューヨークの素晴らしさって何だろう?」 
街中を幾ら歩いてもその様な場所の候補に行き当たりません。
「セントラル・パークの芝生の上でやったらどうか?」 とか「5番街をストップして、道の真ん中では?」 など無責任な案が次々出されましたが、どれもインパクトが足りません。

その様な時に、ニューヨークの名物の一つに摩天楼の夜景が有る、という意見が出ました。
それも1か所からではなく、移動しながら撮影出来ないものかと話はどんどんエスカレートしていったのです。
我々はロケハンで、イーストリバーに浮かぶ観光船に乗ってマンハッタンの夜景を見学したのです。
するとあの摩天楼の街が、昼間見るのとは全く別の世界に迷い込んだような錯覚に陥る景色に出会ったのです。
これだ「これぞ夢のニューヨーク!」と体中に電流が流れたような衝撃を受けました。
ロケハンに参加したチーフDのK氏も同じような思いだったと思います。

NY夜景

「この船を丸ごと借り切って、決戦会場を設営しよう」と話はとんとん拍子に進みました。
どうせ借り切るなら一番豪華な500人乗りの「プリンセス号」が良いだろう。
船を借り切っている訳ですから移動も自由、優勝者が決る時間には、ライトアップされた自由の女神様に接近させる、などというプランも実現させることが出来ます。
毎度お馴染み、地元の高校生のブラスバンドの皆さんも船の上なら自由にリハーサルが出来ます。

本番当日、我々は昼頃から船に乗り込んで、クイズ会場の設営を済ませ、リハーサルも十分に行いました。
そしてビルにポツポツと灯りが点りだす夕暮れ時に、岸壁を離れてイーストリバーを静かに移動していきました。
12回から始まったニューヨークの決勝戦会場は、この様にマンハッタンの夜景を背景に行うようになったのです。
イーストリバーのプリンセス号はニューヨーク観光の夜のコースでは人気のスポットでしたが、船上で食事をしたりお酒を飲んだり、優雅な夜を過ごす事が出来ます。
長いクイズの旅の締めに相応しい優雅な会場でした。
しかも優勝者は、この景色を一人占めしてシャンパンの大ジョキで乾杯したのですから、気分は最高だった事でしょう。

ウーマンパワーが炸裂した年

メリカ横断ウルトラクイズは17年間に亘って放送されましたが、男女の比率でみれば男性が活躍した年が多かったですね。
以前にもブログで触れたと思いますが、第4回は例外で、この年は女性群が圧倒的に強かったのを思い出します。

ヒラリー

サイパン、グアム、ハワイを経由し、アメリカ本土に上陸したのは全部で10人でした。
内訳は男性が6名、女性が4名という配分です。
サンフランシスコを皮切りに、ソルトレイクシティー、イエローストーンと戦ううちに敗者となるのは男性ばかり。
司会の福留アナも
「男は何やっているんだ!頑張れ」
と激を飛ばすのですが、この年の女性群は強いのなんの。
男どもをバッタ、バッタと切り倒し、蹴散らして行ったのです。

そしてニューオリンズでは、最後に残った大学生のE君が敗れ、準決勝のプエルトリコには女性ばかり4人が進出したのでした。
そのメンバーの1人、Nさん(当時27歳)は何と機内ペーパークイズの最下位という成績でした。
この成績は番組の中でも「最下位頑張れ!」と何度も紹介され、励まされながら準決勝まで勝ち上って来たもので、番組史上でも異色の記録保持者です。
それまで、Gパン姿で戦ってきた4人の挑戦者に、番組プロデューサーが「好きな衣装を買いなさい」と特別ボーナスを与え、4人はそれぞれ女性らしく変身して準決勝が行われたのです。

性だけの戦いだけに問題も、女性名詞が答えになるような設問が多かったように思います。
例えば、平塚雷鳥、紫式部、クララ・シューマン、マーガレット・ミッチエル、中山千夏などが正解になる問題でした。
勿論、この様な女性だけの戦いになるなどは予想していませんが、たまたま手元にある問題の中から、答えが女性名詞になる問題を選び出して配分したのでしょう。
また、女性なら必ず答えられる問題として次のような問題も有りました。

・ミセスの第一礼装で、裾だけに模様のある和服を何という?

留袖

・留袖

解説
日本人の女性なら常識と言える知識でしょうね。
黒留袖と色留袖の2種類が有ります。
西洋でいえばイブニングドレスに相当するものと言って良いでしょう。

この年の決勝戦は勝ち残った二人の女性、21歳のUさんと20歳のMさん、共に若きOLの対決でした。
優勝はハチ巻娘の愛称で親しまれたUさんでしたが、初の女性チャンピオンの誕生で、女性の大活躍した回でした。
以来、決勝までたどり着いた女性は第11回のYさんだけで、ウルトラクイズは女性陣にとっては狭き門だったようです。

狭き門

正解が不明?

メリカ横断ウルトラクイズでは、様々なクイズ形式を考えました。
クイズの案を考えるのは我々構成作家の仕事ですが、核になる案を基に、スタッフ会議で検討し、時には形が変わって実行に移される事もありました。
その、数あるクイズ形式の中で特別例外だった正解の決まらないクイズという何とも奇妙なクイズ形式が有ったのです。
それは、第5回のメキシコシティの郊外にある闘牛場、プラサメヒコで行われた「メキシコの子供達95人に聞きます」クイズでした。
我々が用意した質問に対して、メキシコの小学生がどの様な答を出すのか、小学生95人にあらかじめアンケート調査をしておきます。
メキシコの小学生のアンケートで一番多かったのが正解という訳で、つまり、子供たちの心の中を読んだ人が勝ちとなるものです。
従って、正解は子供たちの考え次第で、我々も当日まで正解は解りませんでした。

問題は次のようなアンケートでした。
メキシコの子供たちにジャパニーズ・クッキー、せんべいを食べてもらいました。
・このせんべいの原料は何でしょうか?

せんべい

①米  ②魚の肉  ③トウモロコシの粉

・メキシコの子供たちにコンニャクを手に持ってもらいました。これは一体なんでしょう?

こんにゃく

①日本の海で採れるクラゲ
②熱が出た時に頭に当てて下げるもの
③植物の根から出来た食料品

・メキシコの子供たちが手に持っているのは下駄です。これは何でしょう?

下駄

①旅行用の枕  ②履物  ③伝統的な打楽器

この様に日本の品物に関する、メキシコの子供たちの意識調査の結果が正解になったのです。
この問題で解ったのは、メキシコの子供たちは日本の品物を結構理解していた事でした。

えば、せんべいは、米が一番多くてトウモロコシが2番目でした。
また、下駄は85人が履物と答え、旅行用の枕などと勘違いした子供は1人もいませんでした。
コンニャクはクラゲが第1位で95人中77人がそのように理解していましたが、これは予想通りの結果で、正解者も多かったと記憶しています。

この様に、外国人の日本に関する知識をクイズ形式に盛り込んで、バラエティー色を出していたクイズ形式も結構あったのです。
本来のクイズから少し脱線しますが、エンターテインメントという意味では、視聴者の皆さんも楽しんで下さったと思っています。
この様な答が事前に不明なクイズは、他のクイズ番組ではあまりお目にかかりませんでした。
クイズマニアから見れば邪道かも知れませんが、我々は新しい試みを模索していたので、時々この様な実験的な形式を実行していたのです。
裏を返すとマンネリを避けるための努力だったのかも知れません。

日本三大〇〇は怪しい

メリカ横断ウルトラクイズで、永い事クイズ問題を作る仕事をしていましたが、問題の中には明確な正解が出せないものも結構あります。
例えばクイズ問題の定番である「日本の三大○○を問う問題が良く出題されます。
我々のウルトラクイズでも、日本三名園を問題に出したことが有りました。
第16回のグアムでの事です。

・日本三大庭園の一つ、後楽園がある都道府県は何処?
・岡山県

解説
岡山市にあり、1686年に岡山藩主が作られた後楽園がそれです。なお、残るのは、金沢市にある兼六園、水戸市にある偕楽園、この三園を称して日本の三名園と言われています。

こうした問題はクイズ問題の定番と言えるでしょうね。

日本の三大と言われるその他の例を挙げるなら、日本三景が有名ですね。
松島(宮城県) 天の橋立(京都府) 宮島(広島県) この辺は日本人ならみんなが認めている公認の日本の三大と言えるので、クイズの問題になっても問題は発生しないでしょう。
しかし、クイズの正解に我々は厳密な裏を取っていましたから、日本の三大は要注意問題だったのです。

宮島

三大と言われるものを思いつくままに上げるなら、三大夜景三大松原三大霊山三大名城、三大温泉、三大祭り三大名滝 幾らでも出てきます。
この様な問題を調べている時に、面白い事に気が付きました。
日本の三大、と言われる割には、近隣地区にしか知られていないものが多く含まれていたのです。
何故、その様な事が起こっているのか、突っ込んで調べたところ、昔から日本人は権威に弱く、日本で三本の指に入るというのが一つの権威付けになっていたのですね。
だから、全国的に名の知れた名所、旧跡を二つ挙げ、それに地元の名跡を加えて「日本の三大○○」と名乗っている場所が多い事が解ったのです。
となると、「オラが街の○○は日本の三大と」名乗っているケースが多いという事です。
ウルトラクイズで、その様な問題を出題した時には、別の地域の自称「日本の三大○○」の方達からクレームが来るのは目に見えています。

うした呼び方は、長い歴史の中から出てきたもので、日本人全体が公認している物ばかりではない、という事を知ったのです。
日本三景や日本三名園のように、教科書で公認されている場合は問題ありませんが、世の中には自称が結構多いので、気を付けなければなりません。
クイズ問題の裏を取る仕事をしていると、何でも一度は疑ってみるという事になります。
疑り深い嫌な性格、これも職業病と言えるのですかね。

正解大バーゲンのクイズ形式

メリカ横断ウルトラクイズは、クイズ形式によって時々とんでもない問題が作られる事が有ります。
第11回で、リンカーンという街へ行った時の事、一問で答えが幾つも有るという変則なクイズをやりました。
リンカーンはネブラスカ州の州都です。
ここは西部開拓時代に、東から西に向かって旅をし、ミズリー河があり、それを渡るといよいよ西部の始まりとなったのだそうです。
その時代の物語は、アメリカの西部劇でお馴染でしょう。

て、ネブラスカ州の州都リンカーンの郊外に出ると広大な穀倉地帯になります。
我々はこの穀倉地帯のお百姓さんにご協力を戴き大農場コンバイン刈り取りクイズ」というクイズ形式を考えました。
お百姓さんに畑とコンバインを借り、一問正解すると畑のコーンをコンバインで刈り取り、それを上空から眺めると大きな棒グラフが描かれるというバカでかいスケールなのです。
棒グラフは長ければ長いほど、スケール感が高まります。
従って、一問のクイズで正解が複数あった方が棒グラフが長く描けるという理屈で、問題を作りました。

刈取り

一問多答という訳ですね。
ここで使用されたのは以下のような問題でした。

・日本には「五穀豊穣」という言葉がありますが、アメリカで年間の売上高ベスト5に入る農作物は?
・1、とうもろこし、2、大豆、3、小麦、4、綿花、5、煙草。

解説
綿花と煙草は予想外でしょうが、ベスト3は知らなくても予想できます。その他ポテト、米、オレンジといったような誤答もあったように思います。

この様に一問で正解が幾つかあり、5ポイント勝ち抜けでクイズが行われました。
ウルトラクイズは、馬鹿馬鹿しい思い付きを実際にやってしまうというのが売り物でした。
その意味では自分の得点を挑戦者が畑の中にコンバインで棒グラフで描いて、その状況を空から写す、何と壮大な馬鹿馬鹿しさでしょう。

combine

冷静に考えれば「漫画じゃないんだ、まじめに考えろ!」と叱られそうなアイディアでしょうね。

でも、その様な破天荒なアイディアを実際にやってみろ!」と了承してくれたテレビ局も、大した決断でした。
また、9台もの大型のコンバインとコーン畑を提供してくれた地元のお百姓さんも、ユーモアを理解するアメリカ人ならではの事だと思います。
恵まれた時代の恵まれた協力者が有ってこそ実現した番組だったのです。