知恵を絞れば何かが生まれる

メリカ横断ウルトラクイズは、アメリカ各地を旅しながらクイズを行う番組でした。
今でこそ海外を紹介する番組が氾濫していますが、我々の番組が始まった頃は、そうした番組が少なかったので、皆さんの興味がアメリカの景色にありました。
どの様な場所でも、憧れのアメリカである、という事で許されてしまうような傾向がありました。
テレビの視聴者が知るアメリカと言えば、当時流行したアメリカ製のテレビ・ドラマや映画で見た風景がほとんどでしょう。
我々にしても、映画やテレビで見た景色をロケハンで下見し、そこでどの様な形式のクイズを行うのが一番効果的かを研究していました。
番組が開始されて5~6年くらいまでは、どのような場所を見ても新鮮に感じられたので、クイズ形式のアイディアも豊富に出ていたのです。
でも、人間は何事も慣れて来ると刺激が少なくなってしまうようです。

々番組構成者の頭の中も、次第にマンネリ化されて、良いアイディアが思い浮かばなくなって来たのです。
とは言え、番組は毎年繰り返されて放送が決まってしまいます。
その様に苦しみを感じ始めたのは、8年目9年目くらいからでした。
思い返すとこの辺りから、コースの選択そのものに意味を持たせるようになってきました。
第9回はアメリカを突き抜けて、イギリス、フランスと旅を重ね、パリを決勝の地に決めました。
第10回は、旅の途中で南米コース、北米コースと挑戦者の自由選択で2手に分かれて旅をするなど、変化球を組み込みました。
第11回はメキシコに入り込み、チチェンイツアカンクーンといった新しい名所を開拓していったのです。
更に第12回は北極圏から南極圏まで、南北アメリカ大陸を縦断するという大掛かりなコースを考え付いたのです。
第13回はオーストライア、ニュージランドと大きく迂回をしてアメリカ大陸を目指すという大胆な案を提出、それも実現する事が出来たのです。
もう、ここまで手を広げると怖いもの無しになってしまいます。

いつく案は、「空想であれ妄想であれ、どんどん出せ」というように膨らんでいきました。
そして第14回は我々スタッフが最もクタクタに疲れ果てたアメリカ大陸を全て車で移動という、案が通過してしまったのです。
この時の話は、すでに以前このブログで取り上げていますので、今回は何も無い場所でクイズを行う苦労をお話します。

ケハンでアメリカの大地を車で移動中、面白い情報を得ました。
それは、アメリカにセンター・ポイントという場所があるという話です。
つまり、アメリカのヘソ、ど真ん中と言われる場所が有るというのです。
何処にあるのか? 勿論、アメリカ地図で真ん中を見ればそのような場所が本当にあるのです。
カンザス州のレバノンというところですが、目的の場所を訪れると、何と360度周囲には何もない広い平地の畑だけ。

Lebanon

前のクイズ地、コロラド州のツインレークスから直線で走って935km。
やっとたどり着いたら何もない、センターポイントのモニュメントだけ。

geographicSubheader

それまでに何とこの場所を訪れた日本人は0。
我々が第1号との事でした。

なれば、クイズ地として最適、とはいうものの一体この場所でどの様なクイズを行えば面白いのか? 
実行されたのは「アメリカど真ん中・距離獲得クイズ」でした。
ルールは早押しクイズ、1問正解で、アメリカの好きな州を指名できるのです。
その州の州都までの距離が得点となります。
但し、ハワイ州とアラスカ州は含みません。
この2州はセンター・ポイントを決める時に含まれていないからです。
そして、獲得距離が5000kmになったら勝ち抜けというルールでした。
アメリカ大陸を直線で横断すると5000kmなので、その距離に決めました。
要は遠い州を上手く指名できれば2問正解で勝ち抜け出来ますが、下手をすると何問で到達するか解りません。
アメリカの地図が如何に頭に入っているか?
それが試された形式でした。

ウルトラスタッフは晴れ男?

メリカ横断ウルトラクイズは17年間続いた番組です。
その間、毎年1か月近いロケを行って番組を作っていました。
テレビや映画の撮影で一番大切なのはロケーションの当日のお天気でしょうね。
雨や雪が降っていても、それを内容に取り込める撮影なら問題はありません。
逆にドラマなどの場合は、天気が良くても雨を降らせる設備を使って、雨や雪のシーンを撮影する事もあります。
しかし、我々のウルトラクイズは、自然の天候の中で撮影するのが基本でしたから、雨が降ろうが槍が降ろうが、その自然の空の下で撮影が行われていました。

クイーンズタウン2

しかし、長い歴史を振り返って、天候で悩まされた思い出はほとんど無かったのです。
17年の歴史で、晴天ばかりがそんなに続くなんて奇跡に近いと思われるでしょう。
でも、それは真実なのです。
実は、それには訳がありました。
我々は番組を開始する前に、あらゆる調査をいたしました。
アメリカ大陸を旅をする場合、雨の少ない時期は何時なのか、また、雨の多い場所、少ない場所、この様な調査を綿密に行い、コースとロケの期間を決定したのです。
どの様な場所でも、乾季と雨季がありますが、北米大陸は9月から10月が乾季に当たるらしいという事が解りました。
そこで、1カ月に及ぶロケは、9月から10月にかけて行うという事を決定したのです。
でも、大陸は広いですから、乾季と言えども必ずしも雨が降らないとは言えません。
そこで万一に備えて、スタッフには全員雨対策のために番組のロゴ入りの防水コートが配られています。
でも、このコートの出番は本当に少なかったのです。

ロケの本部用に、テントを持参した筈ですが、テントを張る作業の思い出が無い所を見ると、その様な作業はしなかったのだと思います。
私の記憶では、例外はたったの1回だけです。
第6回のルイビルで雨に降られて、その対策で一寸した騒ぎがありました。
日本のように簡単なビニール製の傘を用意するように現地のコーディネーターに依頼しました。
しかし、街中を走り回っても、透明のビニール傘など売っている場所は見当たりません。

ビニール傘

勿論、大きなスーパーへ行ってもその様な品物は置いてありませんでした。
といって、布製の傘では、撮影現場では使い難いのです。
結局、傘は諦めて防水コートで雨の中、セッティングの準備が行われました。
ロケの本番の時間には雨も止んで、無事に収録が終わりましたが、雨の思い出はこの時の一しかありません。
考えてみれば、我々のロケは西部の砂漠のような乾燥地帯が多かったので、降水確率は低い場所なので、それも雨に出会わない原因だったように思います。
ただ、ロケーション現場は何カ月も前に、関係部署の許可を取って決定していたので、当日天気が悪いからと言って、急遽変更する事は不可能なのです。
そのような制約の中で、一回の事故も無く、ロケが出来たのは、奇跡的とも言えます。
尤も、本番前日に台風が大暴れして、クイズ形式を変えるなどというアクシデントもありましたが、トータルとしてはお天気に恵まれたロケでした。
と、いう事はスタッフが晴れ男の集団だったからでしょうか?

解り難い日常品の分類

メリカ横断ウルトラクイズで、沢山のクイズ問題を作った経験で感じた事ですが、世の中にはクイズ問題になり易い、素朴な疑問が沢山あります。
日本語の中には、普段の生活で使っている言葉なのに、その定義を聞かれるとハッキリと答えられないものが結構ありますよね。
例えば、素麺冷麦うどんの区別はどうなっているの? 
その様な事を子供から聞かれて、正確に答えられる人は沢山いないと思います。
しかし、それを知らなくても、日本で日常生活を送って行く上で、なんら困る事はありません。
でも、知らないよりは知っていた方が良い。
その程度の疑問がクイズ問題には一番なり易い素材と言えるような気がします。

を聞いて「ああ、そうだったのか!」と知識が一つ増える、そのようなゲームがクイズなのです。
また、正解を続ける挑戦者を見て「博学だなあ」と感心したり、誤答する挑戦者に「そんな事も知らないのかと、知っている自分に優越感を感じたり、その様な知的好奇心を刺激するのが、クイズ番組の狙いです。
先ほどの素麺と冷麦に関しては、第7回のグアムの○×泥んこクイズで出題されました。

・素麺と冷麦は、太さが違うだけである。

泥んこクイズ4


解説
素麺と冷麦、共に日本人にとっては夏の味覚として欠かせない食品ですね。
といって、どのような違いがあるのか、厳密な区分けを知らない人も結構います。
正式には、日本農林規格(JAS規格)の乾麺類品質表示基準というもので定義されているのです。

それによると、機械麺の場合素麺は麺の太さが直径1.3mm未満とされています。
これよりも太い直径1.3mm以上、1.7mm未満は冷麦。
1.7mm以上はうどんと分類されています。
同じ材料の麺類で、一番細いのが素麺、次が冷麦、そして太いのがうどんと区別されているのですね。
手延べ麺も機械麺に準じて、手延べ素麺、手延べ冷麦、手延べうどんと分類されています。

この様に日常生活の中で、知っているようで詳しくは知らない事実、その様なものを探すところからクイズ問題を作る、それが我々の基本姿勢でした。
このように、改めて周囲を見渡すとクイズ問題になりそうな疑問が沢山転がっていませんか?
疑問探しも、脳の活性化になりそうで、余暇のお勧めと言えそうです。

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知識の深さがクイズの決め手

メリカ横断ウルトラクイズでは、あらゆる分野のクイズを作りました。
クイズに強い人に共通しているのは、物事の表面だけでなく、中身を深く理解して知識を増やしている事でしょうね。
度々例に出しますが、小説の作者名と作品名を結びつけるような、学校のテストのような単純な知識だけでは勝てないというのがウルトラクイズの問題の特徴でした。
小説や物語のような問題は、多少中身を知らなければ、答えられない問題を作っていました。
何時の時代のどの様な話? 
最低この位の知識がないと正解は出せないのです。
或は登場人物の名前、主役はどの様な人物、そのくらいの知識があって、その作品を知っていると言えるのでしょう。

えば、地名、県名などもクイズ問題の定番と言えます。
ウルトラクイズでも、この分野で沢山の問題が作られていますが、社会科のテストのように、県庁所在地を単純に当てるような問題はありません。
県名、地名を問題にするならば、少なくとも日本の地理をどのくらい理解しているかが問題点になります。
日本の地図が頭の中に、どのように記憶されているかを試す問題となるでしょう。

良くあるクイズ問題で、川の付く県は? というような問題があります。
こうした問題の場合は、日本地図が頭に入っていれば、北から或は南から順に県名を思い出して答を導くことが出来ます。
テレビを見ている視聴者も、同じように考えてお茶の間で番組に参加出来ます。
そこに会話が生まれ、みんなで楽しめる番組となる訳です。
地名に関して、第3回のグランドキャニオンで出題された問題があります。

・日本には山梨、岡山など「山」の付く県が幾つかありますが、本州で一番北にある山の付く県は何処?

解説
これは「川」の付く県でも「岡」の付く県でも、同じパターンの問題は幾らでも成立するでしょうね。
でも、同じような問題はクイズ選考会議で「過去にあった!」と拒否されて、没になってしまいます。その辺がクイズ作家の悩ましいところです。

・山形県

一番北に位置するのは山形県です。その他、山梨、富山、和歌山、岡山、山口 と山の付く県は6県あり、この地図がしっかり頭に入っている人が正解出来た訳です。
物知りと言われる人の中には、単に知識の上っ面をなでる様な人も含まれますが、クイズに勝つ人は「物知り」というよりは「博学」と言われる人のようですね。
この様な人は周囲から「生き字引とも呼ばれています。
歴代チャンピオンには、個人的にこの生き字引称号を与えたいと思います。

einstein

仕掛けられた引掛け問題

メリカ横断ウルトラクイズのクイズ問題は、あの時代の流行、出来事、時の人などを取り上げてクイズ問題にしていたものが沢山あります。
そのようなクイズ問題は、今、振り返って問題を読み返すと、着眼は面白いけれども現在のクイズ番組では使えません。
古すぎて、「何それ?」と馬鹿にされてしまいます。
クイズというゲームは、時代を反映させる役目もあるので、当然の事ですね。
しかし、現在の出来事でも、ちょっと見方を変えて加工すれば、通用する問題も沢山あります。
例えば、第4回のイエローストーンで次のような問題がありました。

・東京の名所で「日本電波塔」と呼ばれるのは、俗に何と呼ばれる場所?
・東京タワー

東京タワー

解説
東京タワーは俗称で、正式名は日本電波塔と言います。
これは経営母体が日本電波塔株式会社なので、会社名をこの塔の正式名称として登録したために、その様になったのでしょう。
そこで、話を現代に戻して、次のような問題を作ってみました。

・東京タワーの正式名称は日本電波塔です。では、東京スカイツリーの正式名称は?

東京スカイツリー

解説
今や東京の新名所となった東京スカイツリーは、東武タワー・スカイツリー株式会社が経営しています。
東京タワーの正式名称が、経営母体の名を取って「日本電波塔と呼ばれているのを知っている人は、同じように経営母体に考えが及ぶ事でしょう。
そして「東武タワー・スカイツリー」と胸を張って答えるかもしれません。
これが、俗に言うひっかけ問題になるのです。

・東京スカイツリー。

こちらは一般に呼ばれている通りの名称が正式名なのです。
クイズ問題の中には、情報を知りすぎているために勘違いすることを狙った、ひっかけ問題が、時々紛れ込んでいるのです。
我々は挑戦者が、これに引っかかると、密かにニタリと笑い、うなずき合っていました。
何と意地の悪い連中! 
そうです。それが我々の素顔だったのです、イヒヒヒ…。