時代と共に変化する一般常識

メリカ横断ウルトラクイズで、沢山のクイズ問題を作りましたが、一般常識というものは、当然ながら時代と共に変化します。
年配の人なら誰でも知っているような問題でも、若い人にとっては「初耳」と言ったような、難しい問題になってしまう事が起こります。
クイズに強い人は、時代を超えて知識を吸収しようと努力をしているので、正解するので、視聴者のお年寄りから見ると「若いのに良く知っている」と感心してしまうのでしょう。
クイズ番組には、この様に年代を超えた楽しみがあるので、昔は人気がありました。
我々問題制作者も、若い人向きお年寄り向き、など問題にも変化を付けて、幅広い層に楽しんでもらうように配分していました。
例えば、第5回のテオティワカンで、以下のような問題が出されました。

テオティワカン

・「風が吹けば桶屋が儲かる」の論法に登場する二匹の動物は何と何?

桶

この問題は年配の方なら誰でも答えられるような易しい問題と言えるでしょうね。多分、お茶の間のお爺ちゃん、お婆ちゃんは直ぐに正解した事でしょう。
しかし、若い人にとっては聞いた事もない、チンプンカンプンな諺のように聞こえるかもしれません。
第一、桶屋とは一体何なのか、今の若い人には解らない商売かも知れません。現代のクイズ番組だったら、問題選考会議で没になりそうな、死語に近い問題と判断されるかもしれません。

・猫とネズミ

解説
これは落語に出て来る笑い話の一つです。
「大風が吹けば、砂埃が目に入り、盲目の人が増えるだろう。盲目の人は三味線を弾くので、三味線が売れて三味線屋は商売繁盛。三味線を作るのには猫の皮が必要だ。となると街中の猫が殺されて三味線の材料になってしまうので、猫の数が減ってしまう。そうすると、猫の天敵ネズミが増える。ネズミが増えると桶をかじるので、桶の需要が増える。だから、風が吹くと結果的に桶屋が儲かる」という論法です。

昔は娯楽が少ない事もあって、この様な笑い話は、寄席で落語を聞かなくても、一般の庶民の会話でよく使われた時代があったのです。
クイズの問題は、この様な庶民の生活の中から生まれたものも沢山ありました。
知っていれば簡単で易しい。でも、知らない人にとっては超難問になってしまう。
それがクイズ問題の面白さ と言えるでしょうね。

ご当地問題最多の地

メリカ横断ウルトラクイズはアメリカ各地を移動しながらクイズを行っていました。
その中で必ずクイズ問題となるのはご当地問題と呼ばれていた問題でした。
これはクイズ地に関連する問題の事です。
挑戦者はクイズ地に到着すると必ず持参した旅の本などで、ご当地の勉強をするというのが一つの行動パターンになっていました。
中には空港で手に入れたパンフレットで、ご当地の最新の話題をチェックする人もいたり、皆さんそれぞれに研究をしていました。
その様な中でご当地の問題はせいぜい1問か2問というのが平均的な出題数でしたが、みなさん実に良く勉強していたのです。

しかし、中には例外も有りました。
例えば、第16回で訪れたキャメロンパークがそれに相当します。
ここは、カリフォルニア州の州都サクラメントから車で40分ほど走った、実に珍しい街だったのです。
何が珍しいかと言えば街の住民は飛行機好きの人間が集まって、一家に一機、中には一家に三機も飛行機を持っている家族が住んでいる街だったのです。

日本では自家用機を所有しているなどと言えば大変なお金持ちと相場が決まっていますが、お国が変われば事情も異なってきます。
キャメロンパークでは、飛行機の所有者30人をゲストに迎え、1問正解すると誰か1人を指名するのです。
そして指名された人の生涯飛行時間が2000時間を超えれば勝ち抜けというルールでした。
運良くベテラン・パイロットを指名すれば一問で勝ち抜け出来ますが、下手をすれば何人指名しても中々勝ち抜け出来ません。
これぞ時の運が大いに作用する究極の運試しと言えるでしょう。

みにこの時に参加したゲストの中で最高は航空会社の機長さんで22,000時間。
最低は38歳の公務員の方で100時間というアンバランスなゲストの皆さんでした。
飛行機の持ち主の職業は千差万別で、布団屋さん、消防士、学校の教師、レジ係りの女性など驚くほど多彩です。
彼らはこのキャメロンパークの自宅の格納庫から道路を飛行機で走り、市営の滑走路から飛び立って、サクラメントやサンフランシスコの職場へ毎日通っているのだそうです。
この様な珍しい街ですから、ご当地問題も飛行機に関する問題が多く出題されました。
その幾つかをご紹介しましょう。

・飛行機で二人が前後に並ぶ形式を何という?

小型飛行機

タンデム式

解説
2人が前後に並ぶタンデム式は軍用の練習機にのみ残されており、民間の練習機は全て横の並ぶサイド・バイ・サイド式になっています。

・「星の王子さまの作者サン・テグジュペリのもう一つの職業とは何?

・飛行士

解説
1920年に兵役の義務により航空隊に入り、除隊後は民間の飛行士になりました。その経験を生かして「夜間飛行」「南方郵便機」などの作品に生かされています。

この様に飛行機関係の問題が多数出され、中には変わり種でこの様な問題も有りました。

・女性に乗ってもらうために「タイト・スカートでハイヒールで飛びましょう」というキャッチコピーが付けられたことのある軽飛行機は何?

セスナ

・セスナ機

解説
日本で言うなら、飛行機が軽自動車のキャッチコピーのような軽いノリで売られていたのですね。

この時に放送された問題19問中、飛行機関連の問題は実に10問ありました。
出題の50%強がご当地問題という変則的なクイズだったのです。

思えば遠くへ行ったものだ

メリカ横断ウルトラクイズはアメリカ各地を旅しながらクイズを行う番組でした。
スタッフ会議で「北の果てから南の果てまで」 行ってみようという無責任な案が出された時には、最初は誰も本気で取り上げなかったと思います。
しかし、考えてみれば常識を覆す案を出せ、というのが我々構成者に与えられた使命でした。
北の果てとは一体何処だろう? そんな調査を始めてみると、北極圏にバローという街があったのです。

barrow

住民はイヌイットと呼ばれる人々で、その生活ぶりも中々興味の持てるものでした。
反対に、南の果てはフェゴ島という島で、マゼランによって発見され、世界一周のヨットマンは必ず通る島という事が解りました。

フェゴ島

しかも、このフェゴ島は人類の住む最南端の島だったのです。
また、地球上で日本から一番遠い陸地であることも判明しました。
この様に調査が進むと、一度は挑戦するべき案だ、という声が次第に大きくなって行ったのです。

ルトラクイズの制作スタッフが、第10回で大幅に入れ変わり、第11回からはメンバーを一新しての再スタートでした。
それだけに新しい試みに挑戦しようという機運が高まっていたのです。
その様な中で、第12回は南北アメリカ大陸縦断という破天荒な企画になったのでした。
僅か一カ月の旅で、南北2つのアメリカ大陸を縦断するというのは考えただけでもハードな旅になりそうです。
しかも季節は、春夏秋冬を体験しようという訳ですから、持ち運ぶ衣類だけでも大変な量になってしまいます。
春と秋は兼用、夏はTシャツとGパン、冬はセーターとコートが必要ですが、最小限に纏めて旅支度をしました。

実際に、その様な旅が可能なのか? 
我々はロケハンでそのコースを実際にたどってみました。
北極圏のバローは夏でしたから、夜は白夜で一日中昼間と言っても良い長い一日でした。
ロケの候補地を探し、気が付けば夜の11時という事もあって働き過ぎのロケハンでした。
しかし、実際のロケが行われたのは9月でした。
バローの9月は冬の始まりで、飛行場に到着した時には猛吹雪だったのです。
と、なるとロケハンで見た景色と一変していたので、どのようになってしまうのかロケ当日も内心冷や冷やの状態です。
でも、案ずるよりも産むが易し、の言葉が有るようにロケは思った以上に順調に進みました。

しかも野生の白熊を望遠レンズで撮影出来るなど、北極圏らしい撮影も出来て快調な出だしでした。

白熊

その後、アラスカ鉄道を使って北米大陸を南下し、南米大陸へ。
ブラジル、アルゼンチンと国を移動しながらクイズの旅を続けました。
ブラジルではサンパウロ、イグアスの滝、アルゼンチンではタンゴを堪能するクイズ、と言ったように世界巡りになってしまいました。
最近では世界各地を旅する番組も数多く有りますが、当時は視聴者参加で、これだけ移動する番組は当時、他に見当たりませんでした。
スケールもウルトラだったのですね。